[大阪民主新報、2005年4月3日付け]


「開発まずありき、後は野となれ山となれ」でいいのか

−−関空二期工事の中止、大阪空港問題の解決のために

2005年3月30日 日本共産党大阪府委員会の見解

 昨年12月18日の谷垣財務大臣(自民)と北側国土交通大臣(公明)の合意で、ムダづかいの典型である関空二期工事が滑走路などの「うわ物」をつくる段階に入りました。中部国際空港が2月に開港し、神戸空港の建設(来年2月開港予定)が進められているだけに、需要や関空の経営赤字など、拡張の無謀を危ぶむ声があがっています。

 また、今回の合意が、大阪空港(伊丹空港)の「格下げ」や、ジェット機の減便などが含まれていることから、関空の需要を人為的につくるための「大阪空港対策」との指摘もあり、地元では、これを環境問題の前進として歓迎する声とともに、地域経済への影響はどうなるのかなど、様々な意見や不安の声が出されています。とくに関空二期事業は、現下の厳しい経済・財政状況のもと、大阪府・市の今後の財政やひいては府民サービスの抑制、府民の負担にもかかわる問題です。

 日本共産党大阪府委員会は、こうした点について、歴史的経過をふまえ、原点にも立ち返って、私たちの分析と見解を明らかにして、府民の皆さんとの対話と共同を進めたいと思っています。ぜひ、皆さんの忌揮ないご意見をお願いいたします。

一、関空二期工事を推進する合理的根拠はない

−−傷を広げないためにも撤回すべきである

 関空第二期事業は、当初から日本共産党をはじめ革新民主勢力が中止を求め、議会内外でねばり強く運動。01度には自民党の行革本部長さえ、「21世紀初頭の三大ばか事業」(11月・太田誠一衆院議員=当時)と批判するようになり、世論も約7割が反対(「朝日」02年2月調査)。こうした中で、扇前国交相・塩川前財務相は「うわ物」については需要と経営動向を見極めて、と当面、建設見送りで一致(02年12月)、04年4月には両省の担当官も両大臣の「一致点」に沿って進めると発言(党国会議員・府会議員の申し入れに)、10月には、内閣の財政制度審議会も「国民の理解が得られない」と指摘しました。世論ばかりか、自民党や政府自身の見解にも逆らって建設強行に道を開いたのが、谷垣・北側「合意」です。ところがこの合意文書は、批判や疑問に何らこたえるものになっていません。逆に需要予測が立てられないことを認めているのです。(説明不能のこの”大逆転”は、過去の疑獄事件さえほうふつさせるものがあります)

「空港をつくったから需要をつくる」という関空二期事業のムダ

 合意文書は需要について「2007年度は13万回程度、2008年度は13・5万回程度、その後も…経営基盤の確立に需要確保のために集客・利用促進・就航促進に向けた更なる努力を行う」と”努力”を語っているだけでその根拠を示していません。日本共産党の志位委員長は、衆院予算委員会で、13万回、13・5万回というのは需要予測ではなく、努力目標でしかないと指摘し、「需要があるから空港をつくる」ではなく、「空港をつくったから需要をつくる」ものだと批判。両大臣は反論不能でした。

 もともと関空二期事業は、2000年に15万回、07には1本目の滑走路の処理能力である16万回を突破するとして、18万回対応、11年には23万回対応の施設供用として計画されたものです。しかし、この計画は全く未達成で、大幅に崩れているのです。1本の滑走路の処理能力=16万回には十分余裕があるのに、2本目を作ろうというのが今回の「合意」です。この文書ではいつになれば1本の処理能力を突破するのかという予測さえ示しえていません。まさに”開発まずありき”というムダな公共事業、税金のムダづかいを浮き彫りにするものです。

中部国際空港、神戸空港開港の影響も考慮せず

 さらに、需要の将来を懸念させるのが、中部国際空港と神戸空港の建設です。

 共同通信社が昨年9月、国内外旅客便37社と貨物便5社の乗り入れ航空会社への関空についてアンケート調査を実施しました。その結果、回答した39社の内容は「関空をハブ空港と位置づける」と回答した会社はゼロ、「位置づけない」が28社、「わからない」と無回答が11社。同記事は「関空はほかの基幹空港との競争に負けつつあるようだ」と論評しています。

 この2月17日に中部国際空港(年間処理能力13万回)が開港し、関空から国際便と貨物輸送の流出は必至と言われ、特に貨物輸送では「村山関空会社社長は『最大で半分が中部にシフトする可能性がある』とみている」(「毎日」05年2月18日付)と報道されています。関空の需要が増えるどころか、減る要因があることを当事者さえ認めているのです。来年には神戸空港(処理能力年間2万回)が開港し、関西に3空港がひしめくことになり、国内線でも減ることが懸念されます。

関空会社の経営はさらに悪化−−せめて中部・神戸の動向見極めるまで中止を

 関空会社の経営状態は「開港5年で単年度黒字」という目算が大きくはずれ、03年度も国が90億円の補給金を投入しながらも62億円の赤字を出し、累積損失額は2100億円を超えるという巨額に達しています。まさに破産状態です。

 参議院決算委員会も04年5月、「関西国際空港については、建設や事業運営を進めるに当たって用いられた数次の需要予測と実績との乖離が年々拡大しており、また、その収益目標も達成できていないことは、看過できない」との決議を採択しているほどです。

 需要見通しが好転する保障がないことは既に見てきたとおりです。そういう経営環境のもとで、拡張を強行すれば1兆4000億円もの二期事業費の負担が重くのしかかり、関空会社の経営がさらに深刻な事態に直面することは明白です。このうち、大阪府の負担は1173億円で04年度までに934億円を支出、05年度は46億8700万円が予定されています。大阪市も05年度23億6500万円の予算を組み、累計で670億円にものぼります。そのつけは住民にも及びます。

 両大臣の建設合意では関空の需要見通しも空港会社の経営見通しについても何ら明らかにせず、北側大臣に至っては数々の批判や疑問に何ら応えることなく、「(平成)19〜20年度には関空会社の経常利益が160億円から200億円にのぼるだろう」(「産経」04年12月19日付)などとノーテンキな発言をしています。無責任そのものです。また、二期工事より、空港島の地盤沈下、高料金のうえ風が吹くと渡れない連絡橋など現にある問題の解決こそが急がれることも言うまでもありません。

 以上のように、現状では2本目の滑走路建設の必要性、合理的根拠も条件も全くありません。当面、せめて中部国際空港、神戸空港の需要動向を見極めるまで中断すべきです。それが傷を広げず、将来に禍根を残さない最善の措置です。

二、大阪空港の最重要の問題は、安全・公害対策

−−地域の活性化を含め、国の責任が問われている

 谷垣財務大臣と北側国土交通大臣の「合意」では、大阪空港対策として、@空港整備法上の格下げ、Aジェット便の減便と時間制限の強化、B環境対策費の大幅削減を打ち出しています。
 この問題でまず強調すべきは、関空の如何にかかわらず、原点は安全と公害対策にあり、ジェット便の減便と時間制限の強化は当然のことです。それに加え、国は、環境基準の達成に責任を持ち、安全・公害対策を第一義的にすすめるべきです。

 また、大阪空港の運営と安全、環境・周辺対策の責任は国にあり、国が一方的に「格下げ」し、地元負担を強いるのは許されません。航空行政上どのような位置づけをするかにかかわらず、引き続き、国が全面的に責任を負い、地元への負担の押し付けはすべきではありません。

空港周辺対策での国の身勝手と無責任な対応

 地域経済を含む周辺対策について言えば、国は、地元に空港を押し付けるときには、「大阪府豊中、池田、兵庫県伊丹、川西の四市に空港がもたらす経済効果は千四百五十五億円(昭和六十二年度)」(「読売」1994年1月14日付)などと、具体的数値まで上げて経済的効果を強調しておきながら、関空開港に伴い国際線を廃止した結果、「旅客数は、…一千万人減り、…空港で働く従業員も半減(注・9000人減)、経済効果は約八千億円の減少」(「朝日」1998年11月6日付)という事態を招いたときには、国はそれに代わる雇用対策や産業対策などの振興策をとらず、地域経済の衰退を放置しました。このような、国の身勝手さと無責任な対応は許されません。今後の大阪空港めぐる動向にかかわらず、地元住民の意思と要求にもとづき、当該地域の振興策を大阪府や地元自治体と協力してすすめることは当然の国の責任です。そのことを日本共産党は強く指摘するものです。

三、安全性・住民合意、経済合理性にたつことこそいま求められる

−−日本共産党の一貫した主張と「オール与党」府政、財界の責任

 関空二期工事、大阪空港をめぐる以上のような事態・矛盾の背景には、安全や環境、採算性を度外視ないし軽視し、経済活性化の『起爆剤』『まず開発ありき』という、この間の大型開発優先の政治姿勢があります。このことを、歴史的経過をふまえ、改めて指摘しなければなりません。

大阪空港の「欠陥除去」を求めた訴訟判決と国の対応

 大阪空港は、戦後米軍から返還後、国内空港としてスタート、1959年、国際路線を開設、第1種空港となりました。高度経済成長の中で宅地化が広がると同時に、便数増と大型化・ジェット化が進み、70年には第2滑走路の供用を開始。それとともに騒音・大気汚染などの公害がひどくなり、70年、周辺住民が騒音公害訴訟を提起、75年の控訴審につづき、81年の最高裁で勝訴。判決は同空港を「欠陥空港」と断じ国の損害賠償責任を問い、欠陥の除去を求めました。この判決にもとづく「欠陥除去」が十全に果たされないままに今日に至っているのです。

 一方、60年代末から大阪空港移転の検討を始めていた財界・政府は、70年代初頭になって新空港建設を急速に具体化。運輸当局は航空審議会への諮問にあたって、関西の航空需要の増大を新空港の必要性の根拠として航空審議会に諮問。同審議会も当初、これを受けて需要予測を計算していたが、その過程で需要予測値が当初予測より半減したため、急きょ、「現大阪空港の抜本的騒音対策」を打ち出し、79年の答申では現空港の「廃止が前提」と書きこまざるをえなかったのです。こうした事実とその後の経過は、地元住民を翻弄してきた政府の航空政策のご都合主義・無責任さを浮き彫りにしています。

日本共産党の主張とオール与党・歴代知事の責任

 わが党は、大阪空港の抜本的な公害対策を求める地元住民の要求を支持しともにたたかうとともに、関空建設に対しては、当初から大阪空港の痛切な教訓にたって、安全性確保と公害対策、国の責任、住民合意などを厳しく求め、チェックしてきました。岸「オール与党」府政が発足し、政府・財界が着工へ暴走を開始した79年には、日本共産党大阪府委員会の定免政雄委員長(当時)が運輸当局に対し、@国が建設費を全額負担するのかA大阪空港の「抜本的公害対策」としての建設かB新空港周辺整備への財政援助をするのかC公害・安全性など科学的調査がなされているかなど4項目に渡って詳細に問題点を示して対応を問い、建設可否の最終結論は府民の民主的検討にゆだねることを強く求めました。

 これに対し79年に、岸府政の与党になった各党は、わが党が指摘した諸問題点や従来の自らの主張さえ曖昧にしたまま、雪崩を打つように関空建設促進へ態度を変えました。岸知事は、黒田革新府政が確立した福祉・教育・中小企業対策最優先、無謀な大型開発抑制の路線を180度転換。以来歴代知事と与党は国の悪政を先取り、ある時は追随し、大企業・財界が求める、大型開発一辺倒ともいうべき路線を強力に推し進めてきました。「中曽根民活第1号」と称賛された財界主導の関空建設はその典型だったのです。

財界主導、「開発まずありき」の路線への歴史の審判にたって

 岸府政から太田府政までのこの25年余、財界の目先の利益を優先、「開発まずありき」の路線に対する歴史の審判は下っているというべきです。大型プロジェクトはことごとく破綻、経済活性化どころか、住民犠牲のもとに、膨大な借金と荒涼とした造成地を残し、「不良債権」化、財政破壊をもたらしました。『建設して需要をつくる』関空二期工事は、審判の下った破綻の道をさらに進もうとする無謀です。『開発まずありき、後は野となれ山となれ』でいいのか−これは空港問題を含め大阪府・市政がすすめてきた「開発行政」に対する住民の怒りの声ではないでしょうか。

 わが党は、このことを改めて指摘し、二期工事を中止し、関空の推移にかかわらず大阪空港の安全と公害対策、周辺整備をはかるよう国と大阪府に強く求めるものです。