あらためて、
関空「陸上ルート」問題を考える

−大阪府の『導入容認見解』をめぐって−

1998年6月13日
日本共産党阪南地区委員会


 大阪府は5月11日、“専門家会議”の「最終報告」を受けて「陸上ルート容認」の見解を表明し、地元自治体にその受入れを求めてきました。後々の世代にまで影響を及ぼす重要問題として、多方面の意見に耳を傾け、慎重な検討を心から願うものです。ここに改めて今日までの経過やとりくみの結果を踏まえて見解を表明します。   積極的なご検討を心から期待します。

1.「最終報告」や府の「見解」に、なお重大な疑問や問題点が残されており、引き続き住民参加の十分な検討・討論が必要と考えます。

@ 関空建設にあたって、「滑走路が3本になっても陸域は飛行しない」と運輸省が地元に対して約束したこと、大阪府も自らパンフレットを発行して「陸域は飛ばない」と府民に広く宣伝したこと、1984年4月、当時の岸知事が「飛行経路は変更の許されない前提条件」と国会で陳述したことなどは、大阪府とも繰返し確認してきた明白な経過です。運輸省関空課長も「陸域飛ばない約束」を確認(1997年4月)しましたし、大阪航空局藤本保安部長は、「当時は滑走路がネックであり、1本で16万回、最終23万回可能と確信してそう約束した」と明言(1998年1月)しているのです。「海上ルート」が関空建設の大前提であることは、誰も否定出来ない周知の事実です。9市3町の議会決議にもそのことが示されています。

 ところが、府の「見解」などは、未だに「3点セットの基本は『努めて海上を飛行』『低高度では陸域を飛行しない』」と、すり変えています。それでは、当初から「陸上ルート」導入が可能な確認のもとに関空が建設されたことになります。もしそうなら関空は建設されていなかったでしょう。こうしたすり替えの上の議論は到底許されないことではないでしょうか。

A 「最終報告」は、「飛行経路は、基本に係る重要問題」と述べながら、結局地元の意見を直接聞く機会のもたれないまま「陸上ルート」導入容認の結論を下しました。「海上ルートを守った上での問題解決の方法はないのか」、運輸省の説明を聞くだけでなく、さらに広く意見を求め、厳しく検討すべきではなかったでしょうか。現に、6月5日大阪府空港対策室との交渉において、滑走路1本16万回の予定が、12万回で満杯になったのは、「滑走路でなく空域に限界ある」「従って陸上ルートの追加が不可欠」と主張されてきたことを確認。ところが運輸省は、「滑走路2本になった場合、海上ルートなら18万回可能」と答えている事実を示し、「12万回で限界というなら、残りの6万回はどう管制処理されるのか」と質問しましたら、府は回答不能となりました。素人でも気がつくこのような疑問さえ、解明されないまま「陸上ルート」導入を地元に要請するなどということは、驚くべきことではないでしょうか。

 また、運輸省が「総合的取り組み」(1997年6月)で示した混雑解消のための3つの対策も、「海上ルート」のままで実施できないのか、厳しいつめた議論もないままに、運輸省の主張が容認されたと思わざるを得ません。

B さらに付け加えるならば、「専門家会議」が「陸上ルート」容認の結論を生む前提に関空の「国際ハブ空港」としての発展が建設当初からの主張であり、それは無条件に追求されるべき課題だという認識があることです。「中間報告」のまとめでも執拗な迄に「国際ハブ空港」と言う言葉の挿入が主張され、最終報告では、それは「世界第一級の国際ハブ空港」という主張にまでエスカレートされています。

 しかし、建設当初「国際ハブ空港」などと言う議論は誰一人言ったことはなく、80年代終わりになって関西財界が言い出したのが事実です。その上に黒野前運輸省航空局長までが「空港行政として…ハブ空港を目指すつもりはないとはっきり申し上げておきたい」「日本のように狭隘な国土と、環境問題の厳しいところにおいて、例えば東アジアのゲートウエイとして日本に路線を集めるのだという時代ではない」(1996年1月25日「1996年航空行政の展望と課題」)と述べている程の問題なのです。航空行政のトップがこのように述べている問題なのですから、それを理由に「陸上ルート」受け入れを地元にもとめることが道理ある主張といえるでしょうか。

C 「環境面での特別の配慮」についても、6項目のうち4項目までは「陸上ルート」に関係なく実施可能な対策です。とりわけ「ディレイドフラップ方式」は、岬町などでの騒音苦情に誠実に対応する姿勢があるのならば既に採用されているべきだと考えます。「陸上ルート」受け入れの“交換条件”ではなく、「可能な対策は直ちに実施すべきだ」と主張することこそ求められる姿勢ではないでしょうか。

 なお、新ルートは、「航空路誌(AIP)に記載するので、コース、高度の確保は可能」と主張されていますが、現ルートもAIPに記載されているのに何故コース逸脱が防ぎえなかったのでしょうか、運輸省は何故それを厳しく指導しなかったのでしょうか。これらの点も明らかにすべきことだと考えます。

D 「テスト飛行」は「陸上ルート導入を前提としない」確認の上で行われました。また、「1回や2回でなく、あらゆる気象条件や機種によって長期間行ない、十分なデーターの蓄積が必要」(専門家会議の委員の発言)との認識のもとで行われました。しかし、実際は、「2回で十分」(横山知事の2回目テスト飛行当日の発言)だとテストを終わり、地元の意見を一度も直接聞くこともなく、一気呵成に、「導入容認」の結論をまとめました。「テスト飛行」で、住民の反応が計れないことは、開港前のテストには何の苦情もなかったにもかかわらず、開港後、数百回の苦情が寄せられている事実でも明らかです。もし、実際の飛行が始まったとき、住民からの苦情が多発したら、どうするのか、その解決策への担保を含め、さらに慎重な検討が求められて当然ではないでしょうか。


2.運輸省が「陸上ルート」導入の結論を急ぎ、大阪府を通じて地元に早期の「合意回答」を迫っているのは、“関空の2期事業の年内着工”を絶対条件としているからだと思われます。大阪航空局交渉(6月5日)でも「予算がついているとき、その執行は行政にとっては至上命令」だと、その意図を隠すことなく明言しました。しかし、「2期事業」そのものについても慎重に検討すべき問題点が山積しているのではないでしょうか。私たちは以下の理由で「2期事業」は「一時凍結、住民参加で抜本見直し」を広く呼びかけたいと思います。

@ 「2期事業」は「1期事業」の全面的な総括の上に立ち、あくまでも地元住民のくらし・安全優先、「地元との共存共栄」の立場から、住民合意のもとにすすめるのが当然ではないでしょうか。

 「全体構想推進決議」が地元全自治体で行われていることは承知しています。しかし当時は、関空によって地元泉州は見ちがえる発展、繁栄がもたらされると大きな期待に溢れていました。しかし、実際に開港した結果どうなっているでしょうか。地場産業や雇用は、計画された開発や地域整備は、地方財政の現状は、南海・阪和線の沿線公害の実態は、等々。事実に基づく冷静な総括の上で、「2期事業」をどうすすめるのか、住民参加で検討すべきだと考えます。

A 同時に、「1期事業」当時と社会情勢が大きく変化していることも考慮すべきだと考えます。3兆円にのぼる借金など大阪府財政は「未曾有の危機」に直面し、老人医療費助成制度の大改悪をはじめ、府民のくらし・福祉・教育への大ナタが振るわれ、府民への厳しい犠牲が押しつけられようとしています。その時期に、総額1,170億円もの府財政を投入して、ゼネコン・大企業がその殆どを請け負う大事業を推進することが妥当な税金の使い方だと言えるでしょうか。「不況打開のため」という声も聞こえますが、大型公共事業が景気回復に役立たなかったことは、宮沢内閣以来の6回の公共事業中心の景気対策(総額66兆円)の結果を見れば明らかです。“福祉への投資”がより大きな雇用効果を生み景気回復に有効であることも指摘されている今日、住民のくらし・福祉をこそ優先して追求すべきではないでしょうか。

B 関空は世界初の民間会社が経営する国際空港です。ところが当初の予期した採算のメドが立たないことが明らかになっています。それは民活方式の破綻、即ち公共性の高い空港運営は、「儲け」本位の民間会社では無理だということを示しているのではないでしょうか。ところが「2期事業」は、その点の見直しを行なうどころか、儲けにならない「用地造成」を別会社にやらせ、公的資金を増額(大阪府は1期の2.9倍、ところが財界は逆に0.6倍)させることで打開をはかっています。「第一種空港は国の責任で」の原点に基づいて経営のあり方そのものも検討すべきときだと考えます。

C さらに、「2期事業」にかかわって無視出来ない重大な問題は、「陸上ルート」を前提としたアセスメント手続きが一方的にすすめられている問題です。それは、7回にわたって開かれた「説明会」でも質問・意見の大半がこの不当性を追及するものであったことにも示されていると思います。1期事業のアセスは「26万回海上」が前提でしたが、その部分を一方的に破棄(6月5日大阪航空局回答)する不当は許せるものではありません。そもそも「陸上ルート」案そのものが、関空建設の大前提を踏みにじる不当なものでありますが、仮りに1つの“提案”として検討されている事実を認めたとしても、地元の議論がこれから始まろうとしている段階で、一方的にそれを前提としたアセスメントがすすめられ、「環境への影響は基準内」と宣伝するとは一体どういうことなのか。これが「地元との共存共栄」の関係なのか。地元と関空との関係の根本に係る重大問題と言わねばなりません。

 6月5日の大阪府交渉では、「『陸上ルート問題』と『2期事業』とはリンクさせない。」「地元での陸上ルート問題の検討に期限は切っていない」ことを確認しました。また、運輸省大阪航空局交渉で当局は、首長がアセスについて意見を述べる8月31日までに「陸上ルート問題についての結論がまとまっていないなら、陸上ルート前提の部分について『保留』の意見をつければ良い」と回答しています。

 当局の不当性を追求しつつも、「2期事業の年度内着工」や「アセスメントへの意見提出時期」に左右されず、十分な住民合意のための手立てを講ずることを求めるものです。


3.今後の検討に当たって行政当局は、「住民参加」「住民合意」を重視することは当然のことであり、つぎのことに留意して進めるべきではないでしょうか。

@ いうまでもなく行政当局は、関空建設を巡る事実経過を確認するとともに、“陸上ルート反対の議会決議”を住民合意の前提として尊重する立場ですすめること。地域整備等の計画は、「陸上ルート容認」の“交換条件”とすることなく、それはそれで住民要求にもとづいて積極的にすすめること。

A 関空建設をめぐる経過やルート問題をめぐる経過などを、地域住民に良く知らせた上で、多様な住民の意見が反映されるよう、校区単位等適切な規模の「討論集会」や「説明会・意見を聞く会」などを計画すること。なお、全住民対象(抽出を含む)のアンケート調査(電話、ハガキ、聞きとり、町会への協力要請など)等も含め、より広く公正な住民の意見が集約できる方法を検討するなど、「住民参加」の実が伴うよう配慮すること。

B 騒音は「感覚公害」であり、苦情の有無が公害問題クリアーの判断基準となることは、専門委員等の意見からも明らかです。従って、関空の騒音問題について「観測」「監視」の体制強化と併せて、住民の反応・苦情を今後とも継続的に把握することを是非検討するとともに、苦情が多発した場合の“対策とそれが実行できる担保”の確認は不可欠の問題として明らかにすること。


長文で恐縮ではございますが、皆さん方からのご意見をお寄せください。

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