日本共産党大阪府委員会は十月十九日、次の提言を発表しました。


関西空港建設・事業のあり方の
抜本的転換へ、府民的討論をよびかけます

2000年10月19日 日本共産党大阪府委員会

根幹にかかわる二つの大問題−−二期事業強行は許されない

 関西国際空港は開港六年を過ぎ、新たに「二〇〇七年供用開始」を目標とする二期事業がすすめられています。
 しかし、関空事業はいま、根幹にかかわる二つの大問題に直面しています。

 その一つは、関空株式会社の経営危機問題です。一期事業だけで一兆四千三百億円もの建設費がかかり、当初目標にしていた「開港後五年で単年度黒字」どころか、現在累積赤字は千五百七十一億円、有利子の借金は一兆円以上で、その利払いだけでも年間四百数十億円にのぼります。採算をとるために設定した「世界一高い」着陸料は、外国航空会社があいつぎ撤退する要因ともなり、経営改善の見通しはたちません。そのうえ総事業費一兆五千億円以上の二期事業が重くのしかかっています。
 いま一つは、空港島の地盤沈下問題です。「開港後十年で十一・五メートル」という「予測」をすでに超えて沈下していることが明るみに出され、空港会社は地下破損の恐れがある旅客ターミナルビルと貯油タンク周辺の地中に壁をはりめぐらせるという応急措置を決めました。しかし、いまも年二十センチ以上の沈下がすすんでおり、その科学的な解明も抜本的対策もないまま、さらに深い海域での二期事業埋立工事をすすめています。
 こうした現状に、関空問題は公共事業をめぐる熱い焦点の一つとなり、自民党内部からも「二期見直し」論や「関空は国の責任。府が空港事業から手を引くこともあり得る」(森山府議団幹事長)などの議論がでています。

 しかし、政府や空港会社は、抜本的解決のための手だてをとらず、一時しのぎの「国費投入による着陸料引き下げ」策や「遮水壁」設置など、小手先の対応に終始し、そのツケを大阪府などの自治体にもおしつけています。
 関西国際空港は、本来公共交通機関として、国民の共有財産にすべきものです。しかし、このままでは空港機能そのものに一大欠陥をきたし、府財政を際限なく圧迫する府民の「重石」になりかねません。

なぜこんな事態に陥ったのか

 抜本的解決を図るためには、なぜこんな現状に陥ったのか。事態の責任と要因を明らかにすることが不可欠です。
 その最大の問題は国の姿勢にあります。世界初の本格海上空港であるにもかかわらず、地盤沈下や財政問題などに十分な見通しをもたないまま一九八一年にゴーサインをだし、八四年には国が責任を投げ出した形で、「民活」=「株式会社」方式による運営を決めました。このもとで、「安全」「環境」よりも「経営」「採算」が最優先され、『航空需要見通しは最大限、沈下予測は最小限』という考えられない無責任な「予測」がたてられました。そして、「最大十三メートル沈下」という科学者の予測を無視した最小限の埋立土量設定による失敗と開港延期。「見直し」による事業費の一・四倍以上の拡大(九二年)、大阪府・市の負担拡大による二期事業の決定(九五年)、原点じゅうりんの「陸上ルート」(九八年)などが次々強行されました。

 同時に、関西財界・大企業と府の責任も重大です。関西財界は、関空とその関連事業のすべてを「六百三十兆円公共投資計画」の受け皿としてゼネコン浪費と利権の対象にし、「大阪湾ベイエリア開発」などの巨大開発事業計画をくりひろげてきました。関空はそのための「国際ハブ空港」「関西活性化の起爆剤」として、どんな事態があっても「一路推進」という路線がとられてきました。大阪府も八〇年代以後、岸知事が「国の責任」論をくつがえして「民活」路線を受け入れたことをはじめ、歴代知事が府民の願いや選挙公約をも踏みにじり、国や関西財界いいなりに巨額の自治体負担と開発路線を推進してきました。

 しかし、これらの路線の矛盾と破たんは明らかです。自民党内部から「滑走路の国の買い上げ」「伊丹との経営一体化」などの議論がだされていること自身、「民活」路線の破たんとその抜本的解決策を示せないゆきづまりぷりのあらわれです。「ベイエリア開発」の破たんも、「土地利用転換の進捗(しんちょく)が鈍い低未利用地や分譲の進まない新規埋立分譲地の存在など順調な状況とはいえず…閉塞感」(九九年関経連「ベイエリア開発整備促進のための制度・手法に関する意見」)など当事者自身が認めています。「地元との共存共栄」どころか、府財政は四兆円の借金残高など深刻な財政危機に陥り、泉州各市町の地域整備も国が責任をもたず、「泉佐野コスモポリス」や「りんくうタウン」事業の破たんなど地域経済や自治体財政、環境に大きな負の遺産が残されています。
 今回の経営危機と地盤沈下問題は、こうした国と関西財界、大阪府の無責任なやり方による矛盾が一挙に噴き出たものにほかなりません。
 日本共産党は、いまこそ二期事業は凍結・中止し、関空事業のあり方について、次の三つの点で、府民的に抜本的検討を加えることをよびかけるものです。

抜本的検討へ、三つの点で緊急対策と府民的討論を

 とくに急いでとるべき対策は次の諸点です。

(1)沈下の全面的なデータの公開。沈下予測と抜本対策を明確に

 第一に、地盤沈下の実態、データを全面的に公開し、より科学的、全面的な対応策をとれるようにすることです。
 運輸省・空港会社は、現在の沈下量は島内調査地点十七の平均十一・五メートルで、「概ね当初から見込んでいた予測(十一・四メートル)の範囲内」としています。しかし、この「予測」そのものが、着工時の「八メートル」、九二年の開港延期決定時の「十メートル」、その後「開港後十年後から十一・五メートルで終息」、それがいまでは「十年後十一・五メートル、五十年後十二メートル」と何度も「修正」されたものです。
 また、「実測値」がようやく公表されたものの、調査十七地点の位置が途中で変更されるなど、全容は不明です。
 現在の沈下の主因となる洪積層については一定のデータと科学的知見が蓄積されつつあるものの、なお未解明な分野が残され、関空事業にかかわった土質工学者のあいだからも、「このまま二期工事をすすめるべきではない」という強い警告がだされています。

 いま求められることは「安全第一」「人命第一」を鉄則にした抜本対策です。地盤沈下についてのデータや科学的な見通しもないままに、「遮水壁」などの緊急対策だけでことをすませ、そのための追加負担をなしくずし的に大阪府などの自治体に求めるやり方は許されません。
 運輸省・空港会社は、「予測値」と「修正値」とその根拠、「実測値」の推移など、地盤沈下にかかわるすべてのデータをただちに府民の前に公表し、府民合意の得られる抜本対策を明確にすることです。

(2)空港会社の新たな収支見通し・経営目標を明らかに

 第二に、空港会社の経営目標をあらためて明確にすることです。
関空は「弾力的・効率的な企業的経営を可能とする」(一九八四年、細田運輸大臣の空港会社法案・趣旨説明)との理由で、国際空港建設として前例のない「民活」=株式会社方式がとられました。その際、「五(開港後五年で単年度黒字)・九(配当開始)・二十三(累積赤字解消)」が経営目標とされ、その前提には運輸省が設定した右肩上がりの「航空需要予測」などがありました。
 ところが、この目標の破たんはだれの目にも明らかなのに、運輸省も、空港会社も新たな経営目標を明確にできず、着陸料引き下げのための一時しのぎの国費投入案や職員リストラなどによる「経営改善策」(中問報告)をだすだけで、これにはマスコミも「経営責任なお不明確」ときびしく指摘しています。
 御巫(みかなぎ)空港会社社長は、「二期ができれば、単年度黒字化の見通しもつく」とのべていますが、こんな甘い、無責任な態度をくりかえさせてはなりません。
 「民活」方式のもとで、関空経営のあり方は府財政にもきわめて重大な影響を及ぼします。

 今春発表された、総務庁・行政監察局の報告書は、空港会社の経営のあり方についてきびしい警告を発しながら、「空港基本計画等は国の責任において決定」されており、空港会社は「この枠組みの範囲内」で、「健全な経営と円滑な空港運営を実現することが、同社の経営上の責務」として、運輸省と空港会社の責任を問うています。
 空港会社だけでなく、運輸省が責任をもち、今日の現実を踏まえた経営目標とその実現方策をあらためて府民の前に示すことは当然です。また、経営陣に加わる関西財界、府の責任もきびしく問われます。

(3)関空事業のあり方についての集中審議と「関空検討委員会」設置を

 第三に、国会、府議会で、関空事業のあり方についての集中審議をおこない、科学的探求と府民合意をあらためてはかることです。
 八月四日の衆議院運輸委員会で、日本共産党の大幡基夫衆議院議員は、地盤沈下問題をただし、関空問題での集中審議を求めました。これには他会派の議員からも、「関空は党派をこえてやらなければ」という声がでています。
 また、九月府議会では、わが党だけでなく、自民党も代表質問で「国に抜本的措置を求めよ」とのべ、太田知事は「国に抜本的対策を求める」と答弁し、府独自にも関空経営改善策を提案する研究会を設ける考えを示しています。
 地盤沈下問題への対応や関空会社の経営改善策を検討するうえでは、何よりも「安全」「環境」を最優先の基準にすえること、科学的検討と住民合意をはかること、そのために中立的な第三者機関をまじえ、住民参加と情報公開をはかることが必要です。そのための「関空検討委員会」を設置し、きびしいチェックをおこなうことを提起します。
                                                     以 上